これは、僕がまだ保育園に通ってたときの話です。
そのころの僕は、石を集めるのが大好きでした。
きれいな石を見つけると、ポケットに入れて持って帰って、家で並べて眺めるのが楽しくて。
ツルツルしてたり、ちょっと光ってたり、そんな石が宝物みたいに思えたんです。
ある日、おばあちゃんと一緒に、近くの神社に行きました。
そこはあんまり人がいない、ちょっと寂しい場所で、鳥居の奥に小さい祠があるだけの古い神社でした。
その祠には、白い蛇の像があって──
目のところに、小さな紫色の石がはまってました。
その石が、赤にも青にも見えて、すっごくきれいだったのを覚えてます。
祠の前に立ったとき、足元に、同じ色の小石が落ちてたんです。
ビー玉くらいの大きさで、ツルツルで、とてもきれいだったから、なんだかすごく気になって……
「ちょっとだけ、もらってもいいかな?」って思っちゃって、こっそりポケットに入れちゃいました。
その日の夜、夢を見ました。
白いもやもやの中で、足元になにかが動いてました。
細長くて、白くて、つるんとしてて……
それが蛇だってわかったとき、動けなくなって。
その蛇、僕の顔の前まで上がってきて、じっと見てきたんです。
目の色が、昼間拾った石とまったく同じで、赤にも青にも見える紫色でした。
声は聞こえなかったけど、頭の中に、こんな言葉が浮かびました。
「……それ、返して?」
びっくりして目が覚めたら、ポケットが破れてて、石が見つかりませんでした。
でも、枕元に、白くて小さいウロコみたいなのが落ちてて──
僕、怖くなって泣いちゃって、お母さんに全部話しました。
そしたらお母さんも顔をこわばらせて、すぐにおばあちゃん呼んで、三人で神社に行きました。
祠の前で、「ごめんなさい」って何回も謝って、ポケットから石を出そうとしたら、もう無かったはずの石が、なぜかちゃんと入ってました。
そっと石を祠の前に置いたら、風がふわって吹いて、なんだか誰かが笑った気がしました。
それからは、夢も見なくなったし、ウロコも出てこなくなりました。
でも今でも、その神社の前を通るとき、ちょっとだけ、目の端に紫の光がチラッと見えるときがあります。
こっちを見てる気がして、怖くて顔を上げられません。
もう石は拾ってません。
とくに神社では──絶対に。